レジリエンスとは? SDGsが謳う持続可能な社会の回復力

SDGsの169個のターゲットの中で「レジリエンス」という言葉が頻繁に登場します。もともと物理学や工学の分野で使われている言葉ですが、近年は防災や減災という意味合いで使われることも増えてきました。
「レジリエンスを高める」ということは、持続可能な社会実現にどのような意味を持つのでしょうか?
今回は「レジリエンス」の意味と、その必要性について考えてみましょう。

目次

レジリエンスとは? どのような場面で使われるのか?

レジリエンス(resilience)は「強靭」、つまり「強くてしなやかであること」と訳されることが多い言葉です。「回復力」などといわれることもあり、困難な問題や危機的な状況に遭遇しても、すぐに立ち直ることができると意訳されることもあります。

ガラスの花瓶とゴムのボールを想像してください。ガラスの花瓶はとても硬いので、落とすとすぐに割れてしまい修復できません。一方、ゴムボールはギュッと握ると一時的にへこみますが、手を離せばすぐに元の形に戻ります。その様子がレジリエンスです。そのため、「柔軟性がある」「自己回復力がある」「自己治癒力がある」と訳されることもあります。

レジリエンスは物理の分野で「外からの力による歪みを跳ね返す力」や「弾力」を説明する際に使用されていますが、近年は精神医学や心理学で「強くてしなやかで自己回復力がある」というような概念を表現する際に使われています。

また、最近では「レジリエンス経営」や「組織としてのレジリエンス」など、ビジネスシーンでも使われるようになりました。
ビジネスにおいての「レジリエンスを高める」ということは、予期せぬ事態に直面するなど、問題が起こった際に個人や組織が臨機応変に対応できるような組織づくりをすることです。
失敗をしても許容される雰囲気の醸成や、日頃から役職や部署を越えたコミュニケーションがとれる環境を整えることで、問題が起きても柔軟に対応し解決することが可能になります。

事業による問題以外にも、自然災害や病気、戦争など思いもよらないことで企業の経営が左右され、危機にさらされることがあります。
そこで、たとえ一時的な打撃を受けても、ガラスの花瓶タイプではなく、ゴムボールタイプの組織を作ることを多くの企業が考え始めているのです。

レジリエンスとSDGsとの関わり

レジリエンスはSDGsでもたびたび言及されています。SDGsは2015年に国連が掲げた、持続可能でよりよい世界を目指すための国際目標ですが、レジリエンスはその17の目標のうち、5つに登場します。

  • 目標1「貧困をなくそう」……「貧困層や脆弱な状況にある人々の強靱性(レジリエンス)を構築」
  • 目標2「飢餓をゼロに」……「強靭(レジリエント)な農業を実践する」
  • 目標11「住み続けられるまちづくりを」……「災害に対する強靱さ(レジリエンス)を目指す総合的政策及び計画を導入・実施した都市及び人間居住地の件数を大幅に増加」
  • 目標13「気候変動に具体的な対策を」……「災害に対する強靱さ(レジリエンス)」
  • 目標14「海の豊かさを守ろう」……「強靱性(レジリエンス)の強化などによる持続的な管理と保護を行う」

このように、SDGsにおいての「レジリエンス」とは、貧困や被災など困難な状況下で外からのサポートを受けるだけではなく、速やかに自らが復旧し、生産活動を続けられる強靭な自己回復力を養う意味合いで使われています。SDGsで謳われる持続可能な社会実現にとって、レジリエンスは重要な意味を持ちます。民間企業でもレジリエンスを意識したSDGs実現への取り組みが始まっています。

例えば、NPO団体が自然災害対策や熱中症対策の必要性を呼びかけ地域社会に対して推進を図ったり、企業が災害・観光ポータルサービスを提供して地域の防災対策ソリューションをつくるなど、レジリエンスの強化につながる活動は広がっています。また、日本の企業がアフリカで始めた「エアコンのサブスクリプション」は、レジリエンス強化のための新しい試みといえます。夏場にエアコンがない環境は、高齢者や子供にとって命に関わることもあります。エアコンの設置や維持管理ビジネスそのものが、気候変動に対するレジリエンス適応策になっているのです。環境省のサイトには「ジャパン SDGs アワード」受賞企業が掲載されていますが、他にも多くの企業がレジリエンス強化のための取り組みを始めています。

防災・減災につながる国土のレジリエンス

日本政府もレジリエンスに注目しています。この場合、防災や減災という面で語られることが多いのですが、レジリエンス強化に有効と考えられている手段のひとつがシステムの「デジタル化」です。
内閣府は国土強靭化(ナショナル・レジリエンス)のため、AIや衛星を利用した統合システムの開発を進めています。その中には、災害発生から2時間で被害状況の観測・分析・解析ができるシステムや、迅速な判断のために必要な情報を?動抽出する情報処理技術などが含まれます。

日本は地震や台風など自然災害の多い国であり、激甚化が懸念されています。自然災害をなくすことはできませんが、国土を強靭化・レジリエンス化することで被害を最小限に抑え、速やかに復興を進められるのです。
これは自然災害だけでなく、テロや事故などの国家的リスクが起きても持続可能な社会を維持するため、レジリエンスはなくてはならないものとなっているのです。

アメリカ心理学会はレジリエンスを強くするために「10の方法(10 Ways to Build Resilience)」を挙げており、「周囲とのつながりを作る」「目標を持つ」「不利な状態下でも決断する」「長期的な視点を保つ」「自分のニーズに注意する」などが含まれています。企業や国家のレジリエンス強化にとっても共通の認識でもあります。各機関と分野を超えて連携し、長期的かつ現実的な目標を持ち、ニーズを特定してリスクマネジメントすることで、強くしなやかな企業経営・国づくりが実現するのです。

まとめ

気候変動や資源の枯渇、環境汚染などにより、私たちの未来はますます脅威にさらされています。貧困などの格差の広がりも、大きな脅威となるでしょう。持続可能な世の中を創ることとは、それらのマイナス要因に対して、乗り越えていく力を身に付けることでもあります。

予測不能な出来事が増えている現代において、強くてしなやかなレジリエンスはもっとも必要とされる資質なのかもしれません。持続可能な社会を実現させるため、個々の、そして国土のレジリエンスを高めていくことが求められています。

参考

経済産業省:
https://www.meti.go.jp/shingikai/economy/resilience_society/pdf/001_02_00.pdf

環境省:
https://www.env.go.jp/content/900498956.pdf

総務省:
https://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/whitepaper/ja/r03/html/nd132300.html

気候変動イニシアティブ事務局:
https://japanclimate.org/actiontheme/theme09/

東洋経済ONLINE:
https://toyokeizai.net/articles/-/331216

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