愛知県小牧市に本社を置くNiterra AQUA。養殖実務・開発研究は、岡山県倉敷市の養殖場でおこなっています。
前編では、代表の大矢誠二がエンジニアとしての転換点から会社設立に至るまでの道筋を辿りました。後編では、技術担当の野田健介と営業・マーケティング担当の藤川由茉を加えて、Niterra AQUAの「今」と「これから」を紹介します。
【関連記事】Niterra AQUA代表 大矢インタビュー
スパークプラグメーカーがえびを育てる理由。Niterra AQUAが描く、食と水の未来

愛知県小牧市に本社を置くNiterra AQUA。養殖実務・開発研究は、岡山県倉敷市の養殖場でおこなっています。
前編では、代表の大矢誠二がエンジニアとしての転換点から会社設立に至るまでの道筋を辿りました。後編では、技術担当の野田健介と営業・マーケティング担当の藤川由茉を加えて、Niterra AQUAの「今」と「これから」を紹介します。
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目次
野田が陸上養殖に関わり始めてから約4年。もともとは別の部署に所属していましたが、「Niterra AQUAで養殖場のリーダーを務めてほしい」と白羽の矢が立ちました。
野田の現在の主な業務は3つ。倉敷養殖場の水槽管理と飼育、えびの出荷業務、そしてパートナー企業の養殖設備の管理です。

野田
もともとは自動車部品の工程設計に携わっており、水産業は全くの未経験だったので、最初は戸惑いもありました。携わって感じたのは、陸上養殖にはまだ解明されていないことが本当に多いということです。論文を参照しながら現場の設備や道具を少しずつ改良していくと、歩留まりや成長率が目に見えて変わってくる。そうした日々の手応えがこの仕事の面白さだと思っています。

野田 健介(のだ けんすけ)プロフィール
2018年、日本特殊陶業株式会社に入社。設計サポート部門を経て2022年から陸上養殖事業に参画。現在は岡山県倉敷市の養殖場に常駐し、水槽の管理・飼育、出荷業務、パートナー企業の養殖設備管理を担う。養殖ノウハウの体系化や飼育マニュアルの整備にも取り組み、「誰でも再現できる養殖」の実現を現場から支えている。
また、クオリティの高いえびを養殖するうえでNiterra AQUAが特に重要視しているのが、水質管理と給餌量の精度管理です。

野田
水質を基準値内に保つこと、そして餌の量を適正に管理すること。この2つが私たちのコア技術です。餌を与えすぎると水が汚れ、斃死*します。また、えびは魚と違って、餌が少なすぎると弱り、共食いが始まってしまいます。成長速度が落ちるだけで済む魚とは違い、えびの場合は個体数が一気に減るリスクがある。だからこそデータに基づいた管理が欠かせません。
*斃死(へいし)…動物が突然死ぬこと。

Niterra AQUAの養殖システムが他と一線を画するのは、設備の提供にとどまらない点にあります。前編でも少し触れた、「ハード(設備)」「ソフト(システム)」「飼育ノウハウ(マニュアル)」で構成されたシステムです。
ハードは、閉鎖循環式の水槽・ろ過槽をはじめとする養殖設備一式です。商業生産向けの中型システムは600㎡程度のスペースに設置でき、3ヶ月ごとに約900kgの収穫が可能。水槽を複数組み合わせることで毎月出荷できる体制を整えられます。また、テスト養殖向けの小型システムは100㎡程度から導入でき、初期検証のハードルを下げる設計になっています。
ソフトは、センサによる水質の「見える化」と、クラウドを通じた作業指示の仕組みです。pH・酸素濃度・水温・ORP(酸化還元電位)を常時モニタリングし、異常値が検出されれば即座にアラートメールが届きます。どの水槽の何の数値が問題かを自動で知らせ、対応マニュアルへの誘導までを実施。さらに、スマートフォンで撮影したえびの画像から体長を自動計測し、適正な給餌量を算出するアプリも独自に開発しました。


なかでも力を注いできたのが、飼育ノウハウのマニュアル化です。

大矢
これまで養殖は職人の勘に頼るところが大きかったのですが、私たちは、工程フローや作業指示書をゼロから設計。稚えびの受け入れから日常点検、出荷、トラブルシューティングまで、一連の作業を誰でも再現できる形に落とし込んでいます。

大矢 誠二(おおや せいじ)プロフィール
Niterra AQUA 代表取締役
1999年、日本特殊陶業株式会社に入社。内燃機関向けセンサの開発・工程設計に携わり、新規センサ製品の開発責任者を務める。2020年、新規事業専属チームへ異動し、環境・エネルギー分野を中心に多数のテーマに取り組む。えびの陸上養殖事業の立ち上げに関わり、2024年7月の株式会社Niterra AQUA設立と同時に代表取締役に就任。
製造業が長年かけて培ってきた標準化の思想を水産業で展開する。これが、Niterra AQUAの技術的な強みにつながっています。
営業・マーケティング担当の藤川は、就職活動中にNiterraグループのWebサイトでえび陸上養殖事業を紹介する動画に出会いました。

藤川
動画を見た瞬間にすぐ、この事業に関わりたい!と思いました。かねてから世界の課題解決に携わりたいとの気持ちがずっとあり、Niterraの技術力が食糧問題の解決、さらには水不足の問題解決につながる可能性を強く感じました

藤川 由茉(ふじかわ ゆま)プロフィール
2024年、日本特殊陶業株式会社に入社。強い意志を持ってえびの陸上養殖事業への参画を希望し、入社時から携わる。うるみえびのブランディングと販路開拓を担い、飲食店・ホテルへの営業活動、水産卸業者との連携、うるみえびを使った商品の開発、HPの作成、ECサイトの運営、SNS・イベント出展などマーケティング全般を手がける。
藤川は現在、うるみえびのブランディングと販路開拓を、リアルとデジタルの両面から担っています。
高級飲食店・ホテルへの営業活動、水産大卸・仲卸とのパイプ構築、ふるさと納税やECサイトを通じた一般向け販売、地域イベントでのえび釣り出店や展示会への出展、リーフレットやホームページ・インスタグラムでの情報発信など、業務は多岐にわたります。出荷作業や選別工程にも関わりながら、現場感覚を営業に活かしています。

藤川
お客さまからまず評価されるのが、臭みがないということ。国内養殖で鮮度が高いという点も強くうたっていますが、実際に試食していただいたときに、そこをしっかり感じていただけています。えびを活きたまま届けることで、シェフが調理ライブで提供できる付加価値も好評です。
うるみえびはすでに、国際味覚審査機構の優秀味覚賞で二つ星を獲得。審査にあたった複数のミシュランシェフからは、味と食感は三つ星相当との評価も受けており、高級ホテルや鮨の名店への採用も着実に広がっています。
また、ブランディングの軸として、うるみえびが持つ「ストーリー」も重視しています。

藤川
自動車部品メーカーが技術力を活かして食のジャンルに挑んでいるという背景をお伝えすると、応援していただけることが多いです。単に美味しいえびというだけでなく、その背景ごと好きになってもらえるブランドにしていきたいと考えています。正解がないからこそ自分で最適解を探す今の業務に、大きなやりがいを感じています。



物流面でも、大きな転換を迎えています。陸上養殖の水産物を運ぶ物流の仕組みは、もともと世の中にほとんど整備されていませんでした。かつて鮮魚の流通は卸売市場を経由するのが基本でしたが、2020年の法改正により仲卸業者が卸売業者を通さず産地から直接仕入れる「直荷引き」が認められるようになったことで、新たな物流の可能性が生まれました。

大矢
数年前まで、水産の業者さんは陸上養殖の魚にほとんど興味を持っていませんでした。でも今、海で獲れる魚が本当に減ってきて、次の商材を確保しなければ彼ら自身も商売が立ち行かなくなってきている。その危機感が、陸上養殖への関心に変わってきています。
「独自で物流を抱えるのは現実的ではない」との課題があったなか、今年から、岡山県の大卸への出荷開始をきっかけに、運送会社の協力で今まで試行錯誤を繰り返した活(かつ)うるみえびの物流問題が大きく改善できました。Niterra AQUAでは倉敷市に養殖場を構えて以来、地域でのえび釣りイベントやふるさと納税の出品など地道な活動を積み重ねており、そうした取り組みがきっかけで大卸業者との縁が生まれました。

大矢
この事業って、これまでお付き合いがなかった会社や地域の人たちが積極的に手伝ってくれるんですよ。これからの未来にあるべき事業だと思って協力いただける方が多くて、それがすごく励みになっています。


大矢が描く次のステップは、ランニングコストの課題を克服すること。年間を通じて水温を一定に保つための電力コストが事業採算性を圧迫しており、その解決策として工場廃熱の活用を進めています。

大矢
空きスペースと廃熱を持っている企業に私たちのシステムを導入して、そこで育てたえびを地域で消費する地産地消モデルを確立したい。まずは倉敷でそのモデルをつくり、それを各地域に展開していくのが直近の目標です。
廃熱を有効活用することで、企業側はCO2削減を訴求できます。養殖事業者にとってはランニングコストの削減、Niterraとしてはシステムの普及と、関係者すべてにメリットが生まれる構造をつくることが、スケールアップの鍵だと大矢は考えています。
Niterra AQUAが目指すのは、単に効率的な養殖システムを売ることではありません。それは、水資源を汚さず、輸入に頼らず、日本の食卓に「安心で美味しいえび」を永続的に届ける仕組みそのものをつくる挑戦です。

大矢
自然資本を使わず人工的な環境で育てている以上、天然ものに比べると販売価格はどうしても高くなります。一方で、この事業を継続することで、食料自給率の問題を少しずつ解決していけるとの自信もある。取り組みを進める中で、『この事業を一緒に育てよう』という皆さんの善意をしみじみ感じています。『少し高いけれど、未来を支えるために買ってみよう』という気持ちでうるみえびを選んでもらえたらうれしいですね。
消費者の選択が事業の継続を支え、事業の継続がやがて生産量の増加とコスト低減につながっていく。サステナブルな食の実現には、選ぶ側の意識も重要です。

大矢
個人的にいつか挑戦したいと思っているのは、養殖で培った水処理の技術を応用して、地方の水インフラの課題に取り組むことです。現在も水道管をはじめとするインフラの老朽化が社会課題となっていますし、修繕が難しい地域はこれから増えるでしょう。そうした地域にエネルギー分散型の水処理システムを導入し、最終的には、地域自らがエネルギーときれいな水をつくりながら養殖もできる、そんな自立した地域のあり方を目指したいですね。
エンジニアの野田が現場で磨き上げる「命を育む技術」と、マーケティングを担う藤川が広げる「価値を伝える販路」。Niterra AQUAの挑戦は、まだ始まったばかり。えびの養殖から水の循環へ。製造業のDNAが、食と水の未来を変えようとしています。
