SDGs6 安全な水とトイレを世界中に とは? 世界的な水への脅威「PFAS」にも懸念

SDGsの目標6「安全な水とトイレを世界中に」は、「すべての人々の水と衛生の利用可能性と持続可能な管理を確保する」ことを目的としたものです。
世界はいま、水資源の枯渇の恐れに直面しています。また、水不足に関連して、トイレなどの衛生環境が整っていない地域も多く存在しています。さらに、水質を悪化させる化学物質の問題も浮上しています。
地球上で循環を繰り返している水は、私たちの生活と密接に結びついています。それを念頭におきながら、水と衛生の問題について見ていきましょう。

目次

世界の水の現状は?

地球の水資源の95%が海洋、1%が氷河などの氷の状態で存在しています。淡水の状態ではわずか1%程度です。このうち飲み水として利用できるのは、0.01%に満たないといわれています。
この貴重な淡水資源によって、人間の命と生活が支えられています。つまり淡水資源を枯渇させず、衛生的で安全な水をすべての人が利用できるようにすることが、この目標の大きなポイントです。

世界の水不足

世界では、総人口の約40%以上に当たる約36億人が水不足の影響を受けているといわれています。その原因は、人口の増加や産業による水の使用量の増加、地球温暖化による気候変動、開発による水源の破壊などが挙げられます。
この水不足はこのままではさらに加速し、国連広報センターでは2025年までに総人口の3分の2、およそ55億人が水不足に陥る可能性があると警鐘を鳴らしています。
水不足とは飲み水だけの問題ではなく、人間の活動全体に関わっている問題なのです。

世界の「安全に管理された水」事情

「安全に管理された水」とは、2015年に採択されたSDGsで定義されたもので、飲み水に関して水質や水源を次のように分類しています。

① 安全に管理された飲み水(供給サービス)

自宅にあり、必要な時に入手でき、排泄物や化学物質によって汚染されていない、改善された水源から得られる飲み水。

② 基本的な飲み水(供給サービス)

自宅から往復30分以内(待ち時間も含めて)で水を汲んでくることができる、改善された水源から得られる飲み水。

③ 限定的な飲み水(供給サービス)

自宅から往復30分よりも長い時間(待ち時間も含めて)をかけて水を汲んでくることができる、改善された水源から得られる飲み水。

④ 改善された水源

外部からの汚染、特に人や動物の排泄物から十分に保護される構造を備えている水源。例えば、水道、管井戸、保護された掘削井戸、保護された泉、あるいは、雨水や梱包されて配達される水など。

⑤ 改善されていない水源

外部からの汚染、特に人や動物の排泄物から十分に保護される構造を備えていない水源。例えば、保護されていない井戸、保護されていない泉、地表水(※1)など。
※1 地表水…川、ダム、湖、池、小川、運河、灌漑用運河といった水源から直接得られる水

この定義では、水質の安全性と水源へのアクセスの両方が重視されていることがわかります。
2020年の時点では、世界の20億人が安全に管理された飲み水を利用できていません。このうち1億2,200万人は、湖や河川など衛生的に処理されていない地表水を使用しており、その半数以上がサハラ以南アフリカに住む人々です。水を汲むために遠くまで行かなければならないといった困難が伴う地域も多くあります。

不衛生な水の利用による問題

安全に管理されていない飲み水を利用することで、多くの命が奪われています。その多くは抵抗力の弱い乳幼児で、不衛生な水による下痢が主な原因です。その数は年間44万人にのぼっています。
また、衛生的な水を十分に使えないことで身体や生活環境を清潔に保てないという問題もあります。それにより、感染症などの病気にかかりやすくなるなどの弊害が出ます。
さらに、病院や保健センターなどの保健ケア施設でさえも、水と石けんの基本的な手洗い設備がないところがあるのです。
水資源の管理は、こうしたさまざまな問題を解決するために急務であることはいうまでもありません。

世界のトイレの現状は?

もう一つの衛生に関する目標がトイレの普及です。トイレは病気の感染を防いで健康な生活を送るだけでなく、人権にも関わってきます。

世界のトイレの普及状況

2020年の時点で、世界の36億人が「安全に管理された衛生施設(トイレ)」を利用できていません。このうち4億9,400万人は、屋外で排泄をしています。地域としては、都市部と農村部の格差が大きく、屋外排泄をしている人の92%が農村部の住民です。 また、トイレがあるだけでは不十分で、排泄物の安全な処理が伴わなければ健康被害をもたらします。こうした不衛生なトイレを利用している人は、6億1,600万人にのぼっています。

「安全に管理された衛生施設(トイレ)」とは

水と同じように、トイレについても2015年に採択されたSDGsで「安全に管理された衛生施設(トイレ)」として定義されました。それは以下のように分類されています。

① 安全に管理された衛生施設(トイレ)

排泄物が他と接触しないように分けられている、あるいは、別の場所に運ばれて安全で衛生的に処理される設備を備えており、他の世帯と共有していない、改善された衛生施設(トイレ)。

② 基本的な衛生施設(トイレ)

他の世帯と共有していない、改善された衛生施設(トイレ)。

③ 限定的な衛生施設(トイレ)

他の世帯と共有している、改善された衛生施設(トイレ)。

④ 改善された衛生施設(トイレ)

人間が排泄物と接触しないよう、衛生的に設計された衛生施設(トイレ)。例えば、下水あるいは浄化槽につながっている水洗トイレ(水を汲んで流す方式、換気式トイレを含む)、足場付ピットトイレ、コンポストイレなど。

⑤ 改善されていない衛生施設(トイレ)

足場がないピット式トイレ、バケツに排せつし外に捨てる方式のトイレ(Bucket latrine)、池や川の上に設置され排泄物がそのまま落ちる方式のトイレ(Hanging latrine)など。

⑥ 屋外排泄

道端、野原、森、やぶ、水域、海岸、その他の屋外で排せつすること。

トイレの整備は水と切り離すことはできず、上下水道の整備がポイントとなっていることがわかります。

トイレを利用できないことによる問題

トイレがなければ排泄物を安全に処理されないため、細菌感染が起こります。水の衛生と同様に、特に子どもたちが命を落とす原因となっています。
また、女性に与える影響も大きいものがあります。不衛生な環境は妊娠・出産時に合併症を起こしやすくなります。屋外排泄は女性が性被害に遭う要因となっていたり、学校にトイレがないために生理が始まると退学する女の子も多くいます。
さらに、生活習慣による弊害も見られます。トイレを設置しても野外排泄の習慣が変えられず、トイレを利用していない地域もあるとのことなので、設備だけでなく衛生への意識を変えていく取り組みも必要とされているのです。

途上国だけではない、化学物質「PFAS」の水への影響

最初にも述べましたが、水の問題は途上国だけでなく全世界に関わっています。水資源をどのように管理し、質と量を持続可能な状態に保つかが重要なポイントです。
その中で、新たな脅威として浮上してきたのが「PFAS」と呼ばれる物質です。

「PFAS」とは

「PFAS(Per-and Polyfluoroalkyl Substances:パー及びポリフルオロアルキル化合物)」は有機フッ素化合物の一部で、1940年代から工業や家庭用品に幅広く利用されてきました。このうち特に注目されている物質として、ペルフルオロオクタンスルホン酸 (PFOS)とペルフルオロオクタン酸 (PFOA)があります。
「PFAS」は撥水・撥油性や耐熱性、耐薬品性、化学的な安定性などの有用な特性を持っており、身近なものではファストフードの包み紙や容器などの食品パッケージや化粧品、床や自動車などのワックス、布製品のシミ防止加工や消火剤など幅広い分野で使われています。そのため、近年では健康への影響や環境リスクが問題視されているのです。

「PFAS」の人体への侵入経路と影響

「PFAS」は大気や土壌飲料水食品、PFASが使われた製品の使用や、そこから出るほこりや繊維の吸引など、さまざまな経路で人体に取り込まれます。水に関しては、工場排気や消火剤などから、土壌や地下水、公共用水、水道水などに汚染が広がっていると考えられています。地表水などを利用している途上国だけでなく、管理された水道水を利用している国でも汚染を受けているのです。 「PFAS」の健康への影響についてはまだ研究段階ですが、動物実験では胎児に影響を及ぼすことや中程度の急性毒性(消化管と肝臓に影響、軽度の皮膚刺激・眼刺激)を引き起こすとの報告があります。また、ヒトの疫学データは得られていないものの、低出生体重ほか発達への影響や、血清総コレステロールの増加、子供のワクチン接種での抗体反応の低下、発がん性などの懸念があるとの報告も一部で公表されています。

こうした新たな水と健康の問題にも取り組みが求められています。

安全な水とトイレの普及のための取り組み

では、世界ではどのような取り組みが行われているのかを見ていきましょう。

水と衛生分野に特化した活動を展開(国際NGOウォーターエイド)

ウォーターエイドは1981年にイギリスで設立され、2022年には34カ国に拠点を置いて活動を展開しています。水と衛生分野の専門性を活かし、それぞれの地域に最も適した解決策を提案・実行できる強みを持っています。
「問題の根本的な原因を探る」「住民のプロジェクト参加を推進」「政府・自治体の能力向上を支援」「“しくみ”全体の強化」という4つのプロセスの実施を特徴とし、これまで2,810万人に清潔な水を、2,880万人に適切なトイレを届けた実績があります。

世界100カ国以上で命と健康を守る活動を展開(ユニセフ)

世界中の子どもたちの命と健康を守るために活動する国連機関であるユニセフは、水と衛生に関しても取り組みを続けています。 井戸などの給水設備の整備、トイレの設置、学校教育や保健所を通じて石けんを使った手洗いなどの衛生習慣を広める活動を、世界100カ国以上で展開しています。特に世界各地の農村部や自然災害の被災地、難民キャンプ、学校などでトイレの設置や井戸の建設を進めています。

「PFAS」の規制

地域を問わない問題である「PFAS」に関しては、「POPs条約(残留性有機汚染物質に関するストックホルム条約)」で製造・輸入および使用の規制が行われています。また国内では、2010年に「化学物質の審査及び製造等の規制に関する法律」の第一種特定化学物質に指定され、製造・輸入が原則禁止されました。
こうした規制と並行して、企業が自主的に使用を廃止する取り組みも進んでいます。2015年にはデュポン、3M、旭硝子、ダイキン工業など国内外の企業が使用を廃止しました。また米マクドナルドやアマゾンでも、包装や容器への使用を廃止・禁止することを決定しています。
このように、「PFAS」の問題解決には、主に産業界でのイノベーションが急務とされています。

水とトイレの問題に私たちが貢献できること

水とトイレの目標達成に向けて、私たちにもできることがあります。

寄付による支援

水とトイレの問題に取り組むNPOやNGOへの寄付による支援は、いながらにしてできる貢献です。先に挙げたウォーターエイドやユニセフをはじめ、寄付を募っている団体・組織があります。
また、アンケートに回答したり、LINEの友達追加で支援ができるといった取り組みもあり、自分に合った方法を選択できます。

日常生活で水を大切にする

日本では安全に管理された水やトイレを使うことができますが、それだけに世界の現状に無関心になりがちではないでしょうか? 節水や水質に影響を与えない洗剤を使用するなど、日常生活で水を大切にすることが目標達成につながる行動なのです。

まとめ

2025年までに55億人が水不足に陥る。このまま何もしなければ、この脅威は現実的なものとなります。持続可能な社会の実現に、「水」は間違いなく必要不可欠な資源です。そのためには、いかにして衛生的な水を確保するのかが急務であることを解説してきました。

水と衛生の問題には、インフラ整備が重要なのは言うまでもありません。しかし、設備があればいいといった単純な手段で解決できるものではなく、いま水と衛生環境が整っている地域にも関わっています。それを忘れずに、私たち一人ひとりが関心を持って知識を深めていくことも大切だと言えるでしょう。

参考

環境省:
https://www.env.go.jp/policy/hakusyo/h29/html/hj17010102.html

国際連合広報センター:
https://www.unic.or.jp/files/54c38330d412f4b7ccafd086511476f8-1.pdf

公益財団法人日本ユニセフ協会:
https://www.unicef.or.jp/about_unicef/about_act01_03.html
https://www.unicef.or.jp/special/20sum/
https://www.unicef.or.jp/news/2022/0162.html

ウォーターエイド:
https://www.wateraid.org/jp/crisis/sanitation
https://www.wateraid.org/jp/what-we-do/for-beginners

沖縄企業局:
https://www.eb.pref.okinawa.jp/sp/water/82/3017

神奈川県:
https://www.pref.kanagawa.jp/docs/pf7/suisitu/joukyou/yuukihusso.html

国立医薬品食品衛生研究所:
https://www.nihs.go.jp/dsi/food-info/foodinfonews/2020/foodinfo202024ca.pdf

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