SDGsの目標4「質の高い教育をみんなに」は、「すべての人に包摂的かつ公正な質の高い教育を確保し、生涯学習の機会を促進する」ことを目的としたものです。
世界には、貧困や紛争などにより初等教育・中等教育を受けられない子どもたちや、受けられなかった大人が多くいます。このことがさまざまな問題につながり、悪循環を生んでいるのです。
世界の教育の現状を知り、問題が改善されることで何が解決され、どんな未来が拓かれるのか、一緒に考えていきましょう。
目次
世界の教育の現状は?
世界では、就学年齢に達しても学校に通えない子どもがいます。UNICEF(国連児童基金)が2021年に発表した報告書によれば、6〜17歳で学校に通っていない子どもは約2億4,400万人にものぼります。地域別に見ると、アフリカや南アジアでの割合が高く、地域格差が目立っています。
学校に通えない主な理由としては、以下のようなものが挙げられます。
子どもが労働力となっている
貧困が原因で子どもが家計や家事を助けるために働き、教育が後回しになっているケースです。児童労働に従事している子どもは、2020年時点で、世界で約1億6,000万人(2020年、ILOデータより)。また、長時間かけて水を汲みに行ったり、きょうだいの世話をするなど、家庭での労働力とみなされている子どもも非常に多くいます。(児童労働に関してはSDGs8でも課題としています)
紛争や自然災害の影響を受けている
UNICEFによれば、2018年の時点において、世界で紛争や自然災害の影響を受けて学校に通っていない5歳から17歳の子どもの数は1億400万人だと報告されています。(前述の通り2021年時点での未就学児童数は2億4,400万人/6〜17歳対象)。紛争や災害によって学校が被害に遭うと通学できないだけでなく、長期化すると復学が難しくなるという状況も出てきます。
また、18歳以下の子どもが軍隊に所属する「子ども兵士」の問題も挙げられます。
男女間の差別がある
国や地域によっては男子を優遇する慣習から、優先的に学校に通わせるケースがあります。また、そもそも女子には教育は必要ないと考えている親も存在しています。世界で小学校に通えていない6〜17歳の女子は、約1億3,200万人にのぼります。(2018年、UNESCOデータより)
障がい者の教育環境が整っていない
途上国では障がい者に対する教育環境が整備されておらず、受け入れができていないために、障がいがある子どもの約9割が学校に通えていないのが現状です。
教育を受けることで改善される問題
教育の問題は、子どもに限ったことではありません。満足に教育を受けられないまま大人になった人も多く、それが負の連鎖を生む原因にもなっています。
すべての人が平等に教育を受けることによって、何が改善されていくのでしょうか?
教育の効果について主な例を見ていきます。
貧困からの脱却
子どもが教育を受けられない最大の原因は貧困です。逆にいえば、質の高い教育を受けることで、雇用のチャンスが生まれてきます。安定した収入を得られる仕事に就くことにより、貧困からの脱却を可能にする必要があります。
これは若者や大人に対しても同様で、世界には読み書きができない人が約7億7,300万人いると見られています。こうした読み書きや計算ができない人をなくし、職業訓練などを受けられるようにしていくことで収入の改善が図られていきます。
子どもの労働からの解放
教育を受けられる人が増え、貧困から脱却して経済的に安定すれば、子どもは労働や家事から解放されていきます。お金がないために学校に通えないといった事情も改善が見込まれます。また、親の「子どもに教育は必要ない」という意識を改めさせることも、教育が担う役割です。
ただ、これには個々の経済状況だけでなく、インフラ整備などの問題も関係してきます。それについては次の項で解説します。
出産時の母親や子どもの死亡率の減少
教育を受けられないまま大人になると、生活に必要な知識や情報を得る手段を持たないことになります。特に妊娠・出産を中心的に担う女性にとっては、命に関わる問題が発生します。 児童婚による未成熟な身体での妊娠・出産は、妊産婦や赤ちゃんの命が失われるリスクが高いのです。
児童婚と教育は深い関係があります。途上国では学校を中途退学する女児の主な理由が児童婚です。親が結婚を強要することによって初めから学校に通っていない女児も多く、早すぎる結婚が心身を傷つけたり、それ以外にも異性との関係を持つことや婚外の妊娠により教育の機会を奪われている現状があります。
これらを防ぐためにも教育によって保健衛生や食生活に関する正しい知識を得ることが大切で、計画的妊娠や病気の予防や正しい栄養の与え方など、死亡リスクを下げることにつながります。
誰もが教育を受けられるための解決策
では、誰もが教育を受けられるためには、どのような対策が必要なのでしょうか? これには直接的に教育に関係する対策と、それ以外の要因に関係する対策が挙げられます。
直接的な対策の例
学校と先生の数を増やす
「学校の数が足りない」「遠くにあるため通うのが困難」といった状況を解消する学校建設の対策が必要です。
また、学校があっても先生の数が足りないために、満足な授業ができない地域もあります。ほかにも、先生自身が十分な知識を持っていないケースもあります。こうした状況を改善するためにも、指導者を育成する取り組みが求められています。
資金面でのサポート
義務教育(初等教育、中等教育)の無償化、高等教育のための奨学金を増やすなど、すべての人が平等に教育を受けられるための資金面でのサポートが必要とされています。
教育施設の改良
男女差や障がいの有無に配慮した教育施設を整備することも必要です。たとえばトイレの整備やバリアフリー化など、誰もが安心して通える施設であることが前提となります。
その上で、個々のニーズに対応した教育環境を構築する取り組みも求められます。
間接的な対策の例
インフラ整備
水道や給水所を設置することで、水汲みに行く必要がなくなります。また、衛生的な水の供給は病気の子どもの減少にもつながり、学校に通うことができる子どもが増えていきます。
大人への啓発活動
大人たちに教育の必要性を理解してもらう取り組みも重要です。保護者や地域のリーダーなどを対象に、啓発活動が行われています。
世界で行われている支援
次に、世界で行われている支援の具体例を見ていきましょう。
世界各地に代替学習センターを設置(ユニセフ)
ユニセフでは、すべての子どもたちが学校に通い、質の高い教育を受けて卒業できることを目指して、世界各地で教育支援を行っています。その支援策のひとつが「代替学習プログラム」の提供と代替学習センターの設置です。
このプログラムは、正規の教育を受けられていない子どもたちのために、文字の読み書き、計算、ライフスキルの3つに重点を置いています。このプログラムで学んだのちに、正規の基礎教育に復学する子どもが増えているとのことです。
また、学用品やレクリエーション・キット、教育キットなどの提供や、教師や学校管理者向けの研修も行っています。
「チャイルド・スポンサーシップ」で支援金を募る(国際協力NGOワールド・ビジョン・ジャパン)
「チャイルド・スポンサーシップ」とは、支援者が支援を必要とする子どものチャイルド・スポンサーになり、1日当たり150円を継続的に寄付する仕組みです。支援金は、子どもを取り巻く環境を改善する長期的な支援活動に使われ、直接手渡されるわけではありません。日本では約6万人の個人と、約3,000の法人・団体が参加しており、2019年度はアジア・アフリカ・中南米の21カ国に支援しています。
まとめ
教育は、すべての人が平等に、生涯にわたり受けられるべきものです。子どもも大人も、教育によって具体的な夢や希望を持つことで、その実現に向けて主体的な一歩を踏み出すことができます。「地球上の誰一人取り残さない」というSDGsの理念は、弱者に寄り添うものであることが教育というテーマを通じて理解できるでしょう。
SDGsについてもっと知りたい方は、こちらのサイトもぜひご覧ください。
参考
外務省:
https://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/oda/sdgs/statistics/goal4.html
公益財団法人 日本ユニセフ協会:
https://www.unicef.or.jp/news/2018/0155.html
https://www.unicef.or.jp/news/2022/0209.html
https://www.unicef.or.jp/about_unicef/about_act04_02.html
JICA(独立行政法人国際協力機構):
https://www.jica.go.jp/publication/mundi/1804/201804_02_02.html
https://www.jica.go.jp/hiroba/teacher/material/jhqv8b000005wd9w-att/2_1.pdf
国際協力NGOワールド・ビジョン・ジャパン:
https://www.worldvision.jp/children/education_26.html
https://www.worldvision.jp/children/education_05.html
https://www.worldvision.jp/news/shien/20220907.html
https://www.worldvision.jp/childsponsor/